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Wild Beasts

—June.6.2016 12:31:44

Wild Beasts A写真_small

Profile

英ケンダル出身のヘイデン・ソープ (V/G)、ベン・リトル (G)、トム・フレミング (V/B)、クリス・タルボルト (Dr)の4人組ロックバンド。2008年アルバム・デビュー。2009年、2作目『トゥー・ダンサーズ』がマーキュリープライズにノミネート。他に比類ない彼ら独自のエレクトロニック・サウンドを極めていく。2011年3作目『スマザー』が全英17位を獲得。世界中で賞賛を受け、数々の年間ベストアルバムに選出された。2014年、4作目『プレゼント・テンス』をリリース、全英チャートにてトップ10入りを記録。同年フジ・ロック・フェスティヴァルに出演。2016年、5枚目のニュー・アルバム『ボーイ・キング』をリリース。

■プレス・リリース訳
ヘイデン・ソープ (Hayden Thorpe) – ヴォーカル、ギター、ベース、キーボード
ベン・リトル (Ben Little) – ギター、キーボード
トム・ フレミング (Tom Fleming) – ベース、ヴォーカル、ギター、キーボード
クリス・タルボルト(Chris Talbot) – ドラム、ヴォーカル

「『ボーイ・キング』のレコーディング最終日になって、僕は自分のなかにある一部をさらけ出しちゃったなぁ、ってちょっと憂鬱になったんだ。それはちょっと醜くて、薄汚れた横柄な部分をね」と語るのはヘイデン・ソープ(Vo, G)。ワイルド・ビースツの5枚目のスタジオ・アルバム、彼らの作品のなかでは最も飾りのない作品で、前作『Present Tense』(2014年)から著しい変化を遂げた作品を振り返って出た言葉である。もし前作がヘイデン(Vo, G)、トム(B, Vo)、ベン(G,Key)それにクリス(Drs)がオンラインカルチャーやエレクトロニックに魅了されて、その時の雰囲気を反映したものであれば、今作『『ボーイ・キング』』もそうであるが、今作のポイントは、トム曰く「怒れる若者に戻る」ことだった。ワイルド・ビースツのヘイデンとトムが作る官能的なメロディとツインボーカル、ベンによるギターのグルーヴ、クリスのアグレッシヴなリズム、そこにヘイデンのダークサイドが駆け巡る。ヘイデンが言うように「5枚目のアルバムだからそこには何か”一体なんなんだ!”というような要素が必要だったんだ。ワイルド・ビースツは前作『プレゼント・テンス』の後を追うようなアルバムではなく、全く違った曲をどのように書くかがポイントだった。ヘイデン曰く「以前のポイントから前に進むためにできる唯一のことは自分の車を混雑した中に向けて突っ込んでく、チキンレースみたいな度胸試しをすることで、今まで一切やったことのないことを全てやるようなことだったのさ」

ロンドンの9 to 5スタジオで曲作りをしながらセッションを始めた当時、バンドにとってはそれがプレッシャーだった。ヘイデンが言うには、彼が作ろうとしたのはジャスティ・ティンバーレイクのソウルフルなポップさとナイン・インチ・ネイルズの勇猛さを合わせたようなアルバムで、その野望は結局彼とトムが曲を発展させていく過程でかなり押し戻された形になった。「トムがリハスタに白いジャクソン・ギターを持って早く乗り込んできて、(曲を)切り刻んで行くんだよね、もともと僕が意図したのはソウル・アルバムだったんだけど」とヘイデン。

問題があったということでは全然なくて、逆にこのクリエイティヴなぶつかり合いが『ボーイ・キング』から醸し出されるユニークなポップ感覚を紐解く鍵となったのは間違いない。トムのより直感的で実験的なアプローチが、ヘイデンの書く作品の中で、セッションが進むごとに新しい方向性を見出して行ったのだ。「彼が持ってきた曲の中から僕にはもっと攻撃的なものがもっと聞こえてきたんだ。もっと前向きで悲しい感じじゃないものが、ね」と語るのはトム。「いつも僕がやっちゃうのは突飛で極端なんだけど、みんなの反応はいいんだよね。それが僕らをもっと後押しして、楽しくやれてるんだ。リハの時は(やっちゃって)悪かったなぁと思ったことが全部本当に上手く行ったね」

丸一年をこの新しい刺激的な作品を東ロンドンで作りながら費やした後、バンドがその作品集を持って向かったのはダラス、プロデューサーのジョン・コングルトンのところだった。「僕らは最も神経を使わない方法で、全く加工もなしにラフな感じに仕上げたかったんだ」とヘイデンが語る。「耳障りな感じ、そういう意味では『プレゼント・テンス』とは対極のもので、そうすることがこの作品を生かす唯一の方法だったんだ」

ヘイデンとトムがダラスへ行く事で願っていたことは、『ボーイ・キング』の持つ剥き出しのパワーを引き出すことであった。スタジオでは曲作りの時と同様に長時間力強さを継続し、彼ら曰く、コングルトンの厳しい決め事によく対応していた。「彼がやったのは、僕らをスタジオに入れ、調子に乗ってやらせてくれたことさ」と語るトム。「イギリス人の礼儀正しさなんて全くなかったよ」

「ジョンが言ったのは『心と頭をおおらかに持つように』とだけだね」と熱く語るヘイデン。「ちょっと尋ねた簡単なことが、アルバムの作る上での迷信じみた話とかその他諸々のノイズめいたこととか、それが僕にとってはすごく深い話だったんだ。それで僕が思ったのは『オーケー、これってすごく人間臭い経験だよね』だからある意味このアルバムは人間臭いアルバムだね。少しだらしなくて、欠点もあり、ちゃんとしてない。僕にとってそれが良かったんだよ。それで僕らは自分らの醜さをさらけ出せたんだから」

『ボーイ・キング』の剥き出しのポップさはヘイデンの歌詞の世界によるもので「曲の中でギターの音色がその個性をほぼ決めていることが徐々にわかってきて、男性っぽいキャラなんだけど、すごく勇猛な男性のね」とヘイデン。「自分の中のバイロン(詩人)を取り出して、今回はどこかに隠そうかと思ったんだけど、彼が突然叫びながら戻ってきたんだよね、まるで超人ハルクみたいに」

剥き出しの男性の本性を持ち、身にまとってワイルド・ビースツは初期の頃から活動をしている。しかしながら『ボーイ・キング』においては正真正銘そのことが実現されている。トムとヘイデンはこのタイミングで実現したことがちょうど良かったと考えいているようだ、男性のアイデンティティが今危機にあるようだから、と。「巷にはたくさんの”俺すごいだろ”野郎、例えば自分の胸筋をひけらかしたり自分のイチモツがいかにデカイか、をひけらかす奴らがいるけど、それって本当?(それが男性らしいって)信じてるの?」と語るヘイデン。最初それを認めながらも、嘲笑う。「過去は僕らもそうだったかもしれないけど、今となっては一種のジョークだよね」

ヘイデンが語る『ボーイ・キング』は「Tinder(出会いアプリ)世代のためのアルバム」だと語る。(そのアプリでは)みんなリアル、もしくはネット上で複数の性別を許される。アルバムで描いたのは、それでもまだ旧世代はときに精神的重圧に苦しんでそのはけ口にショッピングなんか選んでしまう。「Get My Bang」を例にとると、この曲はブラック・フライデーでいつも起こる商業主義の馬鹿騒ぎからインスピレーションを受けた曲だ。「今日の社会で満足を得るためにはなんて長い道のりを歩まなきゃいけないんだってことで、バイロン的な人間はとてもじゃないけど生きていけない。だから自分の存在意義を満たすために買い物に行ったりテレビのことで言い争いをするなんて古臭いことをしなきゃいけない、そこからどうやって抜け出すかだよ」

こんなに力強いアルバムを作るバンドはそうそういないが、ときにはスイートなサウンドもある。このことが『ボーイ・キング』が素晴らしいと言われる所以だ。「2BU」ではトムがボーカルを取り、ドラムマシーンと煌びやかなシンセコーラスがデヴィッド・シルヴィアンのジャパンを彷彿とさせるが、対照的にこのアルバムで最もダークな歌詞、例えば“the kind of guy who wants to watch the world burn.”(世界が焼けて(なくなる)模様を見たいと思っている男のよう)という歌詞を持っている。妖艶なファンクロックの「Tough Guy」、それに「Big Cat」や「Get My Bang」に至る流れは、隙のない攻撃性から内側に秘めたダークネスの間を横切っていくような歌詞で、素晴らしい瞬間である。だから「Celestial Creatures」の前に向かっていくパワーはアンフェタミン的な効果もあり、ダンスフロアでともに狂乱できるパワーを持っており、今まで彼らが書いてきた中で一際目立った素晴らしいトラックになっている。

結局、ワイルド・ビースツのアルバムがいつもやっているように、他の作品を結びつく何かを携えて終わりを迎え、そこに静けさをも与えていく。だから哀しい夢のように静かな感じに処理されたボーカルが出てくる。「ポイントは自分の中のバイロンが自身の傷つきやすさを具体化して、また少年にしてくれるんだ」と説明するヘイデン。これでまた他に比較しようのないワイルド・ビースツのアルバムが完成した。理屈抜きで、官能的そして体を揺さぶる作品だ。それはまさしく21世紀初期のひ弱な男性たちに向けての注目すべきサウンドトラック。もしくはヘイデンが語るように「思うに『ボーイ・キング』は黙示録的なアルバムだね。奈落の底を泳いでいるようなものさ。セックスに関して考えるときには死も考えなきゃダメだ。それらは同じ一つのものだからさ」

■1st シングル「Get My Bang」ミュージック・ヴィデオ視聴リンク

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