
- 『オータム・オブ・ザ・セラフス』
Touch and Go - 2007.09.05 out
-
Touch and Go
TRCP-17 ¥2,520(w/tax)
日本先行発売 (海外/US:9月11日)
日本盤のみボーナス・トラック収録
ライナーノーツ 岡村詩野- From Nothing To Nowher / フロム・ナッシング・トゥ・ノーホエア PLAY PV
- Barnes / バーンズ PLAY
- Good to Sea / グッド・トゥ・シー PLAY
- How We Breathe / ハウ・ウィ・ブリーズ
- Walters / ウォルターズ
- Subbing For Eden / サビング・フォー・エデン
- Devil You know / デヴィル・ユー・ノウ PLAY
- Blue Harvest / ブルー・ハーヴェスト PLAY
- Torch / トーチ
- Bouquet / ブーケット
- Off By 50 / オフ・バイ・フィフティー
- The Speed Of Dub / ザ・スピード・オブ・ダブж
ж日本盤ボーナス・トラック
進化と深化、迷走と葛藤を見届けることが、これほど楽しみなバンドも他にはいない。
ピンバックのニュー・アルバム『オータム・オブ・ザ・セラフス』
おそらく、今のピンバックほど周辺が賑やかで、何か新しい動きが絶えないバンドもいないのではないかと思う。本作を迷わず手にした熱心なファンの方の中には、05年初頭に行われるはずだったピンバックの来日公演が直前で中止になったことも体験しているだろうし(結局、メンバーのロブ・クロウの様々な個人ユニットが出演するイベントに切り替わった)、最近だと、ロブ・クロウが自身のレーベル“Robcore Records”を新たに設立したニュースも当然知っていることだろう。正式なアルバムのリリース・ペースこそ決して早くはないが、ほぼ毎月海の向こうから何かしら届く大小様々な関連ニュースの多さにかけては、きっとこのバンドの右に出るものはいない。そういう意味でも、現在のUSインディー・シーンの“台風の目”であり“最後の良心”と言ってもいいと思う。自分たちの地盤をしっかりと築き、そこから逞しく行動半径を広げていく様子は、マージというレーベルを運営しながら自身たちもいくつかのユニットを稼働させるスーパーチャンクの出端をちょっと思い出させるほどだ。
だが、そうした精力的な活動とは裏腹に、このピンバック、音楽そのものは実に丁寧に作られている。どういうわけか“エモ”という言葉で説明されることが少なくないバンドだが、実際は力任せに演奏をぶちまけることなどまったくなく、むしろ、スタジオ・レコーディング・アルバムの音の重ね方は技巧的でさえあるし、フックのあるメロディからは、一見、メロディアスなポップ・バンドとしての人懐こさも感じることができるだろう。曲によってはシンガー・ソングライター的な内省を覗かせるし、ノー・ニューヨーク的とも言えるソリッドでヒリヒリしたギター・リフが飛び出すこともある。これほど様々なエレメンツを従えているのであれば、活動が多岐に渡っても当然とさえ思えるほどだ。ピンバックはアーミステッド・バーウェル・スミス四世(通称ザック)と、ロブ・クロウの二人によるユニットだが、背後に見える音楽性は何十人分ものの振れ幅を持っている。
そんなピンバックのニュー・アルバムが本作『オータム・オブ・ザ・セラフス』である。直訳すると“天使たちの秋”。Seraphはangelよりも宗教学的に気高いニュアンスがあるようで、タイトルから推察するに、04年に届けられた前作『サマー・イン・アバドン』(abaddonは聖書の用語で“地獄”や“奈落”の意味)の続編的な印象も受けるが、実際のところはどうなのだろうか。いずれにせよ、今作もキリスト教の思想に基づいたかのような示唆的な主題が置かれているのは間違いなさそうだ。 <略>
タッチ&ゴーからの2作目であり通算4作目となるこの新作だが、今回も彼ら自身のスタジオで録音されているものの、ロケット・フロム・ザ・クリプトのマリオ・ルバルカーバと、No Knifeのクリス・プレスコットが参加したことでリズム・セクションに広がりが出てきた印象も受ける。ザックとロブの二人の音楽的バック・グラウンドが恐ろしく広いことは最初にも書いたが、ここではそうした幅の広さが無理なく収まっているようにも思えるがどうだろうか。
そこで、ロブ・クロウ自身によるプレス用に寄稿された文章の一部を引用しておこう。 「これまでに“これ以上素晴らしい場所はどこにもない!”と自分自身に言い切れたことがいったい何度あっただろう? そう思ったのに、それからさらにもっと素晴らしい何かが起こったことは? 何かひどいことが起こって、ベッドから出るのをもう一時間遅くしていたらすべてが全然違うことになってたんじゃないかって思う、なんてこともある。自分の歓びを否定することに生き甲斐を感じる人々もいる。それが人生をもっとむずかしくするのか、楽にするのか、僕にはなんとも言えない。これはピンバックのニュー・アルバム『オータム・オブ・ザ・セラフス』にはまったく関係のないことなんだけどね」
彼らのタイトルや歌詞が主にキリスト教的思想と無関係ではないことは今に始まったことではないが、アルバムの内容について説明することをはぐらかすかのようなこのロブのコメントを読むと、彼らの考え方が宗教的観念では結局何も世界は変わらない、というある種の諦念に基づいているようにも思えてくる。例えば、2曲目「Barnes」などでは長引くイラク戦争の無益さを斜に構えて嘆いているようだが、転じて「Subbing For Eden」と「Devil You Know」が放つ宗教批判とも思えるような強い自己葛藤はとりわけ強烈だ。アメリカ合衆国の国民の多くは、言うまでもなくカトリック思想に支配されているのだろうが、彼らはそこからあらゆる概念を解放させようとしているように思えてならない。様々な音楽性をさりげなく交配させるような在り方も、多民族国家である合衆国の現状を暗に示唆し、そこに立ち返るように示唆しているのではないか。そんな要らぬ妄想さえ浮かんでくるほど、“天使たちの秋”と題された本作が放つメッセージは重厚だ。
と、そんな個人的妄想はここまでにしておいて、後は聴いた各自が心地よい隙間を持つ彼らのこの歪んだポップ・ミュージックを存分に楽しんでほしいと思う。秋には大掛かりなUSツアーも行われるが、このバンド、きっとまだまだ大きな力を持って上昇していくはずだ。進化と深化、迷走と葛藤を見届けることが、これほど楽しみなバンドも他にはいない。
(文/岡村詩野)ライナーノーツより抜粋
