Underworld Biography 2007

Artist

留まるところを知らない再結成ブームに、雪崩のような再発の数々、そして恥も外聞もない繰り返される「創造性」が蔓延る今日、自分達のアーティスト寿命を少しでも延ばそうと、魂を売り渡しているアーティストがあまりに多過ぎる。彼等のほとんどが、芸術的表現そのものを目的とするのではなく、名声までの近道としか見ず、自分達の目的地にばかり執着し、その過程を堪能しない。アンダーワールドのカール・ハイドやリック・スミスのようなアーティストははっきり言っていないに等しい。トリオとしてエセックス州ロンフォードで結成して以来驚異的な27年、そしてデビュー・シングル‘Mother Earth’/‘The Hump’を500枚プレスしてから15年経った今でも、リック・スミスとカール・ハイドは、この旅路を満喫し、自分達の目の前で新しい景色が広がる度に子供のような笑顔になる。ここまで長く活気に満ちた旅ではあったが、まだまだ終わってはいない。

その絶頂期、UKダンス・ミュージック・シーンは「白盤」と口にするよりも速く移り変わっていた。しかし、その中で幾つかのアーティストは心強いことにずっと存在し続けた。その一つがアンダーワールドだった。彼等を特徴付けたものは、最高にアンセミックなノリノリのクラブ・トラックにさえも、深い情緒感そして誰もを惹き付ける人間味を吹き込む能力である。彼等はテクノ、ダブ、トランス、クラウトロック、トラムンベース、アンビエント・ハウス、さらにはブルースといった様々な音楽的要素を融合させ、サウンドのみならず感情も引き立て、対比させ、それにまたカール・ハイドのやたらに予知能力のある、時として不透明で、しかしながら常に目を見張るほど詩的な歌詞を結びつけている。それ故に、あの壮大な‘Born Slippy’は、あのゾクゾクするような削岩機のような鼓動と共に悲痛な実体験の切望を詰め込み、ダニー・ボイルの時代精神を破壊する傑作映画『Trainspotting』の中で不滅の存在となり、ある一世代のサントラとなった。アンダーワールドの手を離れ、英国民族音楽の聖典に入ってから久しいのも不思議ではない。

DJのダレン・エマーソンの脱退、及びライヴ・アルバム/DVD『エヴリシング・エヴリシング』のリリースに続き、2002年、アンダーワールドは二人組になってから初めてのアルバム『ア・ハンドレッド・デイズ・オフ』を発表し、キラキラと目映いばかりの「Two Months Off」という、その夏のイビザで最も愛された曲を生んだ。その翌年、DMC Recordsの依頼で、リックとカールは自分達の『Back To Mine』コンピレーションを監修し、さらに彼等をこよなく愛するファンの為にアンソロジー『アンダーワールド1992 – 2002』を発表する。そして、アンダーワールドの周辺は静まり返ったかのように熱心でないリスナーからは見えたのだった。

実際はその正反対であった。アンダーワールドの長い寿命、そして豊かな創造力を単的に説明するなら、それは彼等の変化への強い欲求だろう。そして、この4年もの間、彼等はアーティストとしての活動の場を、主にネットの世界にまで押し広げるのに費やした。2005年11月、リックとカールは、リヴァーラン・プロジェクトというデジタル・プロジェクトを立ち上げ、書き下ろしの新作音楽を、今日まで3作品という形で直接ファンに向けて届けてきた。そうすることで、容赦ない「曲作り〜レコーディング〜ツアー〜宣伝」システムを飛び越え、自分達の創作意欲により迅速に対応することを可能にした。また彼等は同時に、2004年に故ジョン・ピール氏のBBCの番組を彼の留守中に(残念ながら彼はその休暇中に帰らぬ人となる)代行したのをきっかけに、インターネットのみで聞けるラジオ番組も始め、今後はテレビ用のコンテンツ制作も視野に入れている。昨年、アンダーワールドはフランクフルトのコクーン・クラブからスヴェン・ヴァスと共に4時間に渡る生の映像番組を初めて配信し、今後も不定期に行っていきたいと考えている。

「たまらなく面白い」とリックは二人のインターネット・ラジオについて熱く語る。「その即効性、自由さ、集中力、見かけに騙されることなく聞くことを要求されるからね、そして想像力を膨らませてくれるところが。ジョン・ピールの想像力は、物心がついて以来ずっと我々に鳴り響いてきた。と思うと、こういうことになったのも不思議な縁なんだと思う。」カールが付け加える。「彼の死は非常に衝撃的で、未だに乗り越えられずにいる。彼がいないパラレルワールドに迷い込んでしまったんじゃないかという気持ちがまだある。でも、ジョンの周りのスタッフが我々に面白いインディ・レーベルや新人アーティストを紹介してくれたのをきっかけに、彼等と連絡を取り合うようになったんだ。そのお陰で今はあらゆるジャンルのレコードが定期的に我々のところに送られてくるようになって、我々はそれをラジオ番組を通じて他の人達に紹介することができる。それがジョンが我々に託してくれたことなんだ」

アンダーワールドの活動は単にネット上の仮想空間だけに限られたものでは決してない。2006年には、アンソニー・ミンゲラの映画『Breaking And Entering』のサントラをアビー・ロード・スタジオで尊敬される映画音楽作曲家兼プロデューサー兼オーケストラ・アレンジャーであるガブリエル・ヤレッド氏と共に手がけ、また今年は旧友ダニー・ボイル監督の最新作『Sunshine』も(ジョン・マーフィーと共同で)スコアを書き下ろしている。正にこの2作品こそ、バンドの5作目のスタジオ・アルバムとなる待望の最新作『オブリヴィオン・ウィズ・ベルズ』に大きな影響を与えているのである。情緒に溢れ、静観的、尚且ついつも通り高揚感のある作品。これまでのアンダーワルドの作品に比べより親密な規模で作られ、手の込んだオーケストレーション、アンビエントな情景音、そしてヤレッド氏との仕事で自信をつけた生楽器を積極的に(‘Boy, Boy, Boy’におけるU2のラリー・ムレンJrによるマリンバも含む)取り入れている。2003年以来、二人で作り貯めていた巨大な素材のパレットから作り上げられたこの作品は、これまで常にアンダーワールドを集団から孤立させてきたジャンルのごった煮を反映している。クラフトワークから、エリック・サティ、カン、アンジェロ・バダラメンティ、ローリー・アンダーソン、ラルフ・ヴォーン・ウィリアムス、ザ・ラスト・ポエッツ、イーノ、フィリップ・グラス、さらには「musique contrete」の作曲家であるピエール・ブーレにまで至る。これは間違いなくアンダーワールドでしかなく、さらに捻りの加わったアンダーワールドである。

のっけからかなり強力である。先行シングルであり、アルバムの冒頭を飾る‘Crocodile’は正にアンダーワールドらしい一曲である。‘Ring Road’でカール・ハイドはお得意の脳内小旅行に出掛けながら(今回は祝日のロンフォード近辺にて)、繰り出される彼の言葉のリズムに惹き込まれずにはいられない。また、‘Cuddle Bunny Vs Celtic Villages’の作り込まれたサウンドは、タイトルとは相反して親しみ易いどころか脅威的な雰囲気さえある。その甘美で不穏な‘Beautiful Burnout’には、アンダーワールドらしいシンセ音がなんとも絶望的な美しさで行き交う。一方でミニマルな‘Holding The Moth’ではベースがレコードから飛び出すんじゃないかと思うくらいあまりに勢いよく弾んでいる。そして‘Glam Bucket’は液晶シートのような輝きをみせ、静かなるダウンビートの‘Best Mamgu Ever’のバレアリックな至福でアルバムは閉じる。

「この4、5年間感じていたこの新たな活力が、商業主義の胸壁上には姿を見せないような楽曲という形で出てきた」とリック・スミスは説明する。「我々が最もやりたいことというのは、単に『オブリヴィオン・ウィズ・ベルズ』を出すこと以上に、我々がずっと続けている旅の跡を残すこと。大きな結末を目指しているわけではない。我々が興味あるのは、ある瞬間に自分達が感じたことを表現することで、それは我々が目指している場所を指しているのではなく、ただ我々がその瞬間そこにいたということを語っているだけ。新作のかなりの部分が、映画音楽で素晴らしい体験をしたことのある、映画、旅、そしてアンビエントな、所謂一般的に「アンダーワールドらしい音」と思われている高揚感のあるアンセミックでノリノリの明らかにフロア向きのものとは違う静かなサウンドをこよなく愛する二人の人間が作った作品に聞こえるだろう」

カール・ハイドが付け加える。「「貴方達のインスピレーションの源は何でうか?」という質問をよくさらえるが、だいたいは「退屈すること」なんだ。それに対して我々がなんとかしようとすることが次の旅につながる。「プロセス(過程)」そして「旅」がおそらく、我々の活動の大半を占めているだろう。初期の頃はたくさんの旅をした。車を借りてレコーディングをするのにロンドンまでよく出てきた。その道中、夜いつもラジオを聞いていた。失業手当を受けていた時は、映画を2、3本借りてきて、家で玄米とツナを食べながら朝まで家で映画を見ながら過ごした。だから映画と旅の要素というのは我々の音楽に元来備わっているものなんだ。」

リックは『オブリヴィオン・ウィズ・ベルズ』を「日記のようだ」と見ている。「もう死語のように聞こえるかもしれないけど、歌詞にしても音楽的にも、当時自分達に起きていたことを表現しようとしただけ。このアルバムは本当にギリギリまで手を加え、曲順をいじり倒したけど、我々の意図はそこにある。我々の全てのアイディアに共通して言えることは、正直なものを表現したいという欲求なんだ」

その点においては、課題は完全に達成されている。(収録曲‘Faxed Invitation’から引用された)茶目っ気のあるユーモアを含んだタイトルとは裏腹に、「『オブリヴィオン・ウィズ・ベルズ(鈴のついた忘却)』はアンダーワールドが忘れ去れる危険に一度たりとも曝されてなかった動かぬ証拠である。そこから聞こえてくるサウンドはカール・ハイドとリック・スミスの新らたなる出発である。再び。