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ザ・ウォーターボーイズ新作インタビュー!マイク・スコット大いに語る。

—August.21.2020 00:35:51

Amazon Apple Music/iTunes Spotify Tower Records HMV
巷を徘徊する反逆者、ソウル・ミュージックのレジェンドから傍若無人なハリウッド・スターまで、異端者たちが生き抜いてきたストーリーを、ソウルフルなロックンロール、サイケ、トラッドにのせて描きだす音絵巻。

ザ・ウォーターボーイズ通算14作目のスタジオ・アルバム『グッド・ラック、シーカー』についてマイク・スコットに大いに語ってもらった。

インタビュアー & 通訳:新谷洋子. (2020.08.10)

多くの人が世界をリセットしたいと願っている。(中略)
でも今後の世界がどうなるか予測するのは難しい。個人的に色々望んでいることはあるよ。(中略)
我々は人間に過ぎなくて、まだまだ改善の余地がたくさんあるんだよ。

――あなたが暮らしているダブリンは3月半ばから厳しいロックダウン下にありましたが、その直前に新しいスタジオに移ったそうですね。

ああ。以前のスタジオより自宅に近いから、行き来しやすくなったというのはあるね。メインスペースはちょっとだけ狭くなったけど、場所としてはすごく居心地がいいよ。

――ツアーが出来なくなって思いがけなく生まれた時間は、どんな風に過ごしましたか?

音楽作り以外では、父親業に専念していたよ。7歳になる娘が、彼女の母親の家と僕の家で交互に過ごしているんだ。学校は閉校になり、公園にもレクリエーション施設にも行けないし、友達と遊ぶ機会も限られてしまったから、親子で過ごす時間が一気に増えたよ。

――それにしても相変わらずのハイペースで、前作『ホエア・ジ・アクション・イズ』から1年ほどで本作『グッド・ラック、シーカー』が完成しました。この4~5年間の創作意欲は尋常ではないですよね。

なぜなのか、自分でも分からないよ。まだ小さい子供がふたりもいるわけだから、普通なら以前より忙しくなって、アルバムを発表する頻度も減るはずだよね。ところが逆の結果になった。僕が思うに、父親になったことで時間を有効に使うようになって、集中力が高まって、作業がスピードアップしたというのはあるんじゃないかな。そうするよりほかないからね。そして、いつも子供たちのために物語を作ったり、曲を作ったりしているから、父親業をやりながらも常にクリエイティヴな歯車が回っている状態にある。それから、2014年から15年にかけて僕のバンドには3人のアメリカ人メンバーがいた。そのひとり、ベーシストのデヴィッド・フッドはジェームス・ブラウンやアレサ・フランクリンとプレイした人で、ポール・サイモンの『Loves Me Like A Rock(邦題:母からの愛のように)』(73年)という名曲にも参加している。あの曲は、リズム表現が素晴らしかった。彼のような人が自分のバンドにいるということが、多大なインスピレーションを与えてくれたんだよ。僕が書いた曲をデヴィッドがプレイしているという意識そのものに、マッスル・ショールズで活躍した彼がその偉大な才能を僕の曲でも発揮し、背負っている歴史をサウンドに持ち込んでくれるという意識そのものに、背中を押される気分だった。ほかにも、キーボード奏者のブラザー・ポールとギタリストのザック・アーンストがいて、3人ともアメリカ南部の出身者なんだよ。つまり、ロックンロールとソウル・ミュージックの故郷だ。そういう人たちに囲まれていたことに刺激を受けて、僕は以前にも増してたくさん曲を書くようになった。彼らのために書きたいという気持ちだった。彼らに僕の曲をプレイしてもらいたかった。その後デヴィッドはツアー活動から引退してしまったし、ザックもバンドを脱退して、ギタリストとして活動しつつ今はオースティンにあるAntone’s Nightclubという有名なライヴハウスのマネージャーをやっている。だから残っているのはブラザー・ポールだけなんだけど、彼らの影響は今も残っているんだよ。いまだに、どんどん曲を書きたいという気分にさせてくれるし、自信を与えてくれた。何しろ自分のバンドにはマッスル・ショールズのリズム・セクションがひとりいるわけだから、僕にもそれなりに才能があるはずだ!とね(笑)。

――子供たちのために曲を書いているという話が出ましたが、それがザ・ウォーターボーイズの曲に発展したことはないんですか?

それはないね。完全なる子供向けの歌だから。ゴミ回収のトラックの歌とかね(笑)。

半ば自伝的な部分もあって、実体験も混ざっているけど、どちらかというとストーリーと呼ぶべき曲かな。

――『グッド・ラック、シーカー』に着手した時に、なんらかのアイデアはあったんでしょうか?

特になかったし、たまたま生まれた想定外のアルバム、みたいなところもあるんだ。収録曲の多くは、言わばマッシュアップの形から始まった。ザ・ウォーターボーイズがライヴを行なう時、毎回開演前に流すテープがあってね。僕が好きな曲のインストゥルメンタルのパーツを集めて、ミックスしたものなんだよ。それこそローリング・ストーンズからセルジュ・ゲンスブール、スライ&ザ・ファミリー・ストーンまで色んなアーティストの曲を引用しているんだけど、必ずインストなんだ。このテープを作る時は、そういったパーツを加工したり、音を足したり、逆回転にしたりして、いつも作業を楽しんでいるよ。で、確か10年くらい前にスティーヴ・ウィッカム(フィドル)が、「君が作るイントロのテープは最高だから、あんな感じのアルバムを作るべきだよ」と言ったことがある。ここにきて彼の願いが叶って、およそ半数の曲はそういうマッシュアップに端を発しているんだ。タイトルトラックも然りで、すごく気に入っていた2分ほどの音源を発展させて、ヴォーカルを乗せたのさ。ただ、どうも歌には適さない音源だということが分かって、スポークンワードにしたんだよ。

――曲によっては、過去のザ・ウォーターボーイズの曲を引用したりもしていますね。

ああ。アルバムから逸早く公開した「My Wanderings In The Weary Land」がそうだね。「The Return of Jimi Hendrix」(注:93年発表の『ドリーム・ハーダー』の収録曲)と同じコード進行を使っている。そもそもデヴィッドがいた時期にあの曲をライヴでやりたくなって、新たにデモを作ったんだ。彼らのスタイルに合わせて60年代風のソウル・ストンプ、つまりモータウンのリズムに変えて、新たに弾いたキーボードやギターをループして。当時そのデモをもとにバンドに実際にプレイしてもらって、ツアーで披露できたから、目的は完遂したんだけど、僕はデモがすごく気に入っていて、何らかの形でリリースしたかった。とはいえ、もう1回同じ曲をリリースするのはつまらない。そこで、全く違う歌詞を書いて、今のバンドのメンバーにそれぞれのパートを加えてもらった。つまり、ザ・ウォーターボーイズの歴史を振り返ることで生まれた曲なんだ。何しろ歌詞は、00年発表の『ア・ロック・イン・ザ・ウェアリー・ランド』のブックレットに寄せた文章を引用したものだからね。

――まるで伝説みたいな調子で語られますが、そこかしこに実体験をもとにしているのかなと思わせる箇所があります。

そうだね。半ば自伝的な部分もあって、実体験も混ざっているけど、どちらかというとストーリーと呼ぶべき曲かな。

ここ数年間、僕にとってはスポークンワードこそ、クリエイティヴィティの最前線だと言えるね。

――スポークンワードの話が出ましたが、ほかにも本作では多数の曲でスポークンワードを用いています。リリシストとしては、通常の歌詞と違ってフォーマットに縛られないところが魅力なんでしょうか?

それももちろんある。スポークンワードとして言葉を綴るのは、作詞の作業とは異なるスキルだからね。表現方法としても違う。そして、タイミングというものがすごく重要なんだ。僕は音楽を背景にして話すという行為のフィーリングが好きでね。曲作りが乗馬だとしたら、通常の歌詞を書いている時とは違うアプローチで馬に乗っている感覚、とでも言うのかな。すごく楽しいよ。ここ数年間、僕にとってはスポークンワードこそ、クリエイティヴィティの最前線だと言えるね。

――スポークンワードだと、よりシアトリカルな表現もできますよね。

そうだね。様々なキャラクターを演じることができる。例えば表題曲や『Beauty In Repetition』では、すごく古風なイングランドの人間の話し方を真似ているんだ。こう、固苦しい感じで。ほかにも、このアルバムには入っていないけど、ものすごくキツいスコットランド訛りを試みたスポークンワードの音源もある。確か以前話したことがあると思うけど……。

――ミックステープ企画ですね(注:スポークンワード/ラップ主体で、ややコミカルな内容の曲を集めた番外的な作品をマイクは制作していた)。

そうなんだ。あれも面白いと思ったけど、別のアルバムを新たに作り始めてしまったから少々興味を失って、リリースは見送ることにしたよ。聴いて怒る人も大勢いるだろうし、Patreon(注:サブスクリプション形式のクラウドファンディング・プラットフォーム)で発表することになるんじゃないかな。

ジャケットの人物は僕じゃなくて、アメリカのネイティヴの女性だけど、確かに、何が待ち受けているのか分からない未来へと旅している――というような趣はあるね。

――アルバム・タイトルにはどんな思いを込めたんですか?

タイトルとして“Good luck, seeker(探し求める者よ、幸運あれ”というフレーズが気に入ったというだけなんだよね。ただ、ジャケットの絵にマッチしたことも決め手になった。僕にとってジャケットとタイトルが噛み合うことは、すごく重要な点でね。『モダン・ブルース』の時も、タイトルより先にジャケットを選んだ。あの絵を眺めているうちに“modern blues”という言葉が思い浮かんだんだ。

――今回のジャケットとタイトルはある意味で、あなたが常にまとっている“旅人”というイメージにも合致すると思います。

そうなのかもしれない。ジャケットの人物は僕じゃなくて、アメリカのネイティヴの女性だけど、確かに、何が待ち受けているのか分からない未来へと旅している――というような趣はあるね。それは僕にとって、ザ・ウォーターボーイズにとって、ザ・ウォーターボーイズの音楽において、ずっと重要なものだった。まあ、誰にとっても重要なことなんだろうけど。

――この絵の出自についても教えてください。

実は30年前から持っている絵で、92年にアリゾナかニュー・メキシコのギャラリーで見かけて、購入して額装し、音楽作りに使っている部屋にずっと飾ってあったんだ。B・C・ノーランという人の作品なんだけど、ジャケットに使うにあたって本人と連絡を取って、許可をもらったよ。

――次に、幾つかの収録曲について詳しく伺いたいんですが、まずはオープニング・トラックの「The Soul Singer」。これは特定のアーティストではなく複数の人にインスパイアされたとのことですが、先ほど触れたジミ・ヘンドリックス然り、前作で取り上げたミック・ジョーンズ然り、アイコニックなミュージシャンはあなたの興味をそそるようですね。

ああ。ただ僕の場合、自分自身もすでに40年にわたってミュージシャンでありバンド・リーダーであり続けてきたわけだから、他のミュージシャンを“アイコン”と見做してはいない。むしろ、同業者として興味をそそられる。彼らがどんなやり方で音楽と向き合っているのか知りたいし、同じ問題に直面した時にどうやってそれを解決しているのか知りたい。だからミュージシャンの伝記本や音楽に関する本をたくさん読む。音楽的に決して好きじゃない人であっても構わない。「彼だったらどう対処するんだろう?」って思うんだ。最近ではラモント・ドジャーの伝記本を読んだよ。60年代初めから68年くらいの全盛期の話は本当に面白かった。ホーランド=ドジャー=ホーランド名義の名曲の数々の誕生にまつわる逸話だとか、モータウンのシステムだとか、実に興味深かったよ。過去にもマーヴィン・ゲイやベリー・ゴーディの伝記本を読んだり、モータウンについては様々なアングルの本を読んできて、総じて興味深かった。ところが、とにかくどの本を読んでも、69年くらいからパタリと面白くなくなるんだよ(笑)。

デニス・ホッパーが日本で撮影した作品を集めた写真集もある。全て京都で撮影したもので、かなり高価だったけど思い切って買ってしまったよ(笑)

――アイコンと言えば、俳優のデニス・ホッパーに捧げた、『Dennis Hopper』と題された曲があります。彼のファンだったんですか?

それが違ったんだよ。『イージー・ライダー』に出ていた俳優という程度の知識しかなかった。カウンター・カルチャーの只中に身を置いていた人だとは認識していたけど、特に関心があったとは言えない。ところがある日ロンドンのメイフェアを歩いていて、ロイヤル・アカデミー・オブ・アーツの前を通りかかったら、大きなポスターが貼ってあって“Photographs by Dennis Hopper”と書いてあったんだ。一瞬混乱して、え、画家のエドワード・ホッパーのことかなと思ったりしてね。写真家でもあるとは知らなかったから。それで好奇心にかられて中に入ってみたら、素晴らしかったんだよ。彼が写真家として活動したのは60年代の7年間くらいなんだけど、全てモノクロで、素晴らしい目の持ち主だと思った。すっかり惚れ込んでしまって、写真経由で彼に興味を持ったのさ。そして伝記本を読んだりして、強烈なパーソナリティの人だったことも知って、この曲が生まれた。そうそう、彼が日本で撮影した作品を集めた写真集もある。全て京都で撮影したもので、かなり高価だったけど思い切って買ってしまったよ(笑)。

――それだけの価値はあったということですね。

イエス!

――そのひとつ前の曲「Low Down in the Broom」は古い伝統唱歌ですが、ミステリー・ジェッツのブレイン・ハリソンの名前がクレジットされていますね。

そうなんだよ。アウトロの部分を歌ってくれているのがブレインだね。彼の声をオーバーダブしている。去年ラジオのライヴ・セッションにゲスト参加してくれて、それ以来の付き合いなんだ。

――なるほど。そしてケイト・ブッシュのカヴァーである『Why Should I Love You』は、90年代にもレコーディングしています(注:97年発表のEMIレーベルの設立100周年記念アルバム『Come Again』に提供)。なぜ改めて歌おうと思ったんですか?

実は当時の音源を見つけて、それをデジタルに変換したんだ。で、少し手を加えて、ヴォーカルをやり直して、新たなギター・パートを加えて再構築してみた。あのカヴァーはすごく気に入っていたんだけど、どうも仕上がりに納得できなくて心残りだった。すごく急いで作らなければならなくてね。締め切りまで余裕がなかったのか、ツアーが迫っていたのか、当時の詳しい事情は思い出せないけど、とにかく大急ぎで完成させたのを覚えているよ。最後のサビの前の32小節にわたるドラムのフィルインが素晴らしいんだ。ジェレミー・ステイシーという当時のドラマーが叩いていて、今も友人なんだけど、32小節を全部ドラムで埋めてくれって言ったら、リクエスト通りにやってくれたんだよ。

――アルバムの後半はスポークンワード中心になりますが、「Postcard From the Celtic Dreamtime」はタイトル通りにドリーミーで、格別に美しい曲です。実際に訪れた場所にインスパイアされたんですか?

これは、かれこれ30年ほど前に書いた詩でね。『フィッシャーマンズ・ブルース』をレコーディングした頃に、アイルランドの西岸地方に滞在していたんだ。当時の僕はかなり消耗していて休息を必要としていた。それで環境を変えようと思って、同時にアイルランドの歴史とケルティック音楽に深い関心を抱いていたから、ゴールウェイでしばらく暮らすことにしたんだよ。ゴールウェイの町から12マイルほど離れた丘の上にある家を借りて、そこからは大西洋を見下ろすことができた。その家で書いた詩なんだよ。ただ、トラックはトラックで歴史があってね。ジェイムス・ハリウェルという仲のいいミュージシャンと作ったんだ。ザ・ウォーターボーイズに在籍していたこともあって、90年代に日本でソロ公演を行なった時も同行してくれたんだけど、10年くらい前に彼が作って送ってくれた、10分くらいの尺のサウンドスケープを元にしている。

――ゴールウェイ湾にあるアラン諸島の風景を映した、この曲のミュージック・ビデオを見ましたが、ドローン撮影をしたんですか?

僕とスティーヴとブラザー・ポールが休暇でアラン諸島に数日滞在した時に、飛行機をチャーターしたんだよ。通常アラン諸島に行く時にはコネマラという町から10分ほど飛行機に乗るんだけど、そのルートからはあまりいい景色は見えないんだ。本当に美しい場所は島の反対側にあってね。だから飛行機をチャーターして、思い通りに見たいところに近寄ってもらったりしながら、スティーヴが撮影したのさ。その映像でビデオを作ったんだ。なかなかの腕だと思うけどね(笑)。

グラストンベリーにあるその丘を登っているところを、描いているのさ。

――タイトルトラックも興味深い曲で、内光友愛会(注:1920年代に設立された、霊や魔術の研究を行なう結社)のコマ―シャルのようにも聴こえます。どういう出自の歌詞なんですか?

さっき言ったように、マッシュアップ音源を元にトラックを作ったわけだけど、なかなか合う歌詞が見つからなかったんだ。まずは、まだ使っていない歌詞のストックを探した。でもどれもしっくりこなかった。いつも曲を流したりしながら言葉を探していて、「これだ」という時はすぐにピンと来るものなんだよ。ただこの時は時間がかかった。次に、今までに書き溜めた詩から探そうとしたけど、それもうまくいかない。そこで今度はW・B・イェイツだったり、詩人たちの作品に目を通してみたんだ。やっぱりダメだった。でも曲が気に入っていたから諦めたくなくて、書棚をチェックしていたら、神秘主義の作家ディオン・フォーチュンの本が目に入った(注:『The Esoteric Philosophy of Love and Marriage』)。彼女の本はたくさん持っているんだけど、大好きな一節があったなと思い出したんだ。その昔カール・ウォリンガーも一緒にハマって、全く同じ箇所が好きだったんだよね。そこを読み直したら見事に音に合致して、スポークンワードとして録音したのさ。本の巻末に添えてあった内光友愛会の住所も含めて。何の違和感も抱かなかったからね。02年頃にロンドン北部に住んでいた頃、まさにこの住所にある内光友愛会の事務所の前をよく通りかかったものだよ。会員にはならなかったけど(笑)、フォーチュンの本は本当に好きでね。スピリチャリティについての立脚点は、ほとんど彼女から学んだと言える。

――『ドリーム・ハーダー』にもフォーチュンの世界観を反映した曲が多くありました。聖地であるグラストンベリーを舞台にしていたり、英国の神秘主義的な思想が繰り返し現れていて。

そうだったね。もしかしたらフォーチュンにアルバムを捧げていたんじゃないかな。それ以前の作品にも彼女は影響を及ぼしていて、例えば「The Pan Within」(注:85年発表の『ディス・イズ・ザ・シー』の収録曲)というタイトルも、フォーチュンの本で見つけたんだよ。

――グラストンベリーと言えば、フィナーレの「The Land of Sunset」はまさにこの町の情景を描いています。

うん。グラストンベリーはフェスティバルで有名だけど、中心部はそこから少し離れていて、すごく美しいんだ。奇妙な形の高い丘があって、神秘主義に関心を持つ人にとっては巡礼地でもある。これも成り立ちが面白い曲で、核を成しているのは、コーク出身のアイルランド人の作曲家パダー・オリアダの曲。彼の作品が大好きでね。父親のショーン・オリアダも非常に高名な作曲家だった。現代におけるアイルランドの伝統音楽の父、みたいな存在なんだ。この曲に使っているのはパダーによるオルガンのインストゥルメンタル曲で、そこにブレイクビーツを乗せてみたら、嘘みたいにピタリと合致した。そして、何か相応しい歌詞を書こうと思って、空想上の長編小説の一章であるかのようなこの歌詞が生まれたんだよ。グラストンベリーにあるその丘を登っているところを、描いているのさ。

――この曲が好例で、古い伝説のような神秘的なストーリーを伝えていながら、背後でブレイクビーツが鳴っていたり、モダンなプロダクションを取り入れていることが多いですよね。

そうだね。意図的にやっているわけではないけど、そういう今と昔の並置は面白いと思う。それに、ヒップホップのグルーヴはそれ自体がヒプノティックでもあって、そこに神秘性とつながる部分があるんだよ。

――日本盤にはさらにこのあと、ブルース・スプリングスティーンの『独立の日』のカヴァ―が収録されています。

これは03年にレコーディングしたもので、ミックスし直して、リズムに手を加えたりしたんだ。僕が好きなブルースの曲のひとつで、本当にプレイしやすいんだよ。

(「The Whole of the Moon」は)確かに、ある種のモダン・スタンダードと化したところはあるよね。もちろん、すごくうれしいことだよ。誇りにも感じているし、今もこの曲をライヴでプレイし、歌うのは本当に楽しいんだ。

――ここで少し「The Whole of the Moon」の話をしてもいいでしょうか。というのも、近年この曲は再評価されているところがありますよね。フィオナ・アップルが斬新なカヴァーをレコーディングしたり、U2が『ヨシュア・トゥリー』の再現ツアーのイントロに使ったりして。多くの人が改めて曲の魅力を発見しているのではないかと思うんですが、この曲のレガシーについて、作者としてどんな風に感じていますか?

確かに、ある種のモダン・スタンダードと化したところはあるよね。もちろん、すごくうれしいことだよ。誇りにも感じているし、今もこの曲をライヴでプレイし、歌うのは本当に楽しいんだ。

――また昔の作品に関しては、ザ・シャーラタンズのティム・バージェスが主宰する人気のリスニング・パーティー『Tim’s Twitter Listening Party』(注:毎週末新旧の傑作アルバムを選び、アーティスト自身がツイートで制作秘話を紹介しながらファンと一緒に聴くというイベント)で、『フィッシャーマンズ・ブルース』、『異教徒の大地』、『ディス・イズ・ザ・シー』の3枚が取り上げられました。毎回あなたは懐かしい写真を掘り起こしてくれたり、貴重な逸話を披露してくれていますね。

まあ僕の場合は、過去を振り返ることは普段からよくやっているんだ。今年に入って、ツイッターでたくさんの昔の写真を公開し始めたしね。それにしても、ティムの企画は実は大変で、アルバムの進行に合わせて、猛スピードでエピソードをツイートしているんだよ(笑)。で、無我夢中でやっていて、ふと気付くと終わっている。なかなかエキサイティングな体験だったね。

――ちなみに、次のアルバムも作っているとのことですが、どんな作品になりそうですか?

実はすでに完成しているんだ。ストーリー仕立てのすごく美しいアルバムで、計25曲から成る。短めの曲ばかりだけどね。リリースは来年になると思うよ。

我々は人間に過ぎなくて、まだまだ改善の余地がたくさんあるんだよ

――最後になりますが、今多方面で「コロナ禍が収まったあとの世界はどうあるべきか」という議論がなされていますよね。あなたはどんな世界が訪れることを期待していますか?

それは非常に難しい問いだね。多くの人が世界をリセットしたいと願っている。でも人間の習慣はなかなか払拭できないもので、これまでと同じ仕組みを継続しようとする力は、途方もなく強いんだよ。だから少なくとも最初のうちは、人々が望んでいるほど大きな変化は見られないんじゃないかと思うんだ。とはいえ、今後の世界がどうなるか予測するのは難しい。個人的に色々望んでいることはあるよ。例えば、車の数が減って環境重視の社会になったらうれしい。化石燃料を減らして風力や太陽光や波力で発電して。学校で少人数学級が実現したらいいと思う。教師や医師や看護師たちの給与を上げて欲しい。セレブリティなんかいらない。高給取りもいらない。大企業に対する減税措置なんか必要ない。収益に見合う税金を払うべきだ。でも今のシステムはあまりにも腐敗している。アイルランド政府は税率を過剰に下げて、アマゾンやグーグルといった大企業を誘致している。そういうセクシーな企業を集めることで、アイルランドの未来を確保しようとしているんだよ。それも理解できなくはない。でも大企業を優遇することは倫理に反していると思うし、あまりにも大きな影響力と富を与えてしまうことになる。市民はみんな収入に相応の税金を納めているのにね。こういったことには終止符が打たれなければならないと思う。ただ問題は、どうやって終止符を打つのか、だ。例えば僕は娘に常日頃から「ちゃんと分別してリサイクルして!地球を救わないと!」って言われているんだ(笑)。彼女の世代は、自分たちの未来について確固とした考えを抱いている。そしてそれは正しいんだよ。それを実現する手段や知恵は、まだ身に付けていないかもしれないけどね。問題は、大人になると妥協したり、興味を失ったり、行き詰まったりすることだ。中には、恐ろしい右翼的な思想を抱く者も出てくる。排他的な思想を持つかもしれない。本当に難しいことだよね。我々は人間に過ぎなくて、まだまだ改善の余地がたくさんあるんだよ

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